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コスチューム


観客を非日常の世界へ誘う、それが衣裳の力
『オペラ座の怪人』や『キャッツ』などの海外ミュージカルやオリジナルミュージカルなど、例年、日本全国で年間3,000回以上の演劇公演を行っている劇団四季。SUGINOim体育官网_im体育平台@でもある金澤凪紗さんは、コスチューム担当として作品の世界観を支えています。劇場のバックステージで忙しく立ち働く金澤さんを訪ねました。

四季株式会社(劇団四季)
舞台美術部 コスチューム担当
金澤 凪紗さん インダストリアルパターンコース 2019年卒業
千葉県/東海大学付属浦安高等学校出身
PROFILE
2019年、四季株式会社(劇団四季)入団。『リトルマーメイド』札幌公演を皮切りに、『オペラ座の怪人』『アラジン』『美女と野獣』と4つの演目で衣裳を担当。現在は、舞浜アンフィシアターでロングラン上演中の『美女と野獣』衣裳チーフとして活躍中。日々クオリティをアップグレードしながら公演をやり切ることが目標。

客席からは見えない場所で舞台の流れを支える

俳優に衣裳を着せつけ、曲を合図に舞台へ送り出す。時には暗転中に出て行って舞台上で早着替えの手伝い。ホックの縫いつけが取れたら、舞台袖で緊急対応…。これらは“本番つき”といって、コスチューム担当の重要な仕事のひとつです。客席から見えるのはキラキラした非日常の世界だけですが、実は、公演本番の進行は金澤さんら裏方スタッフのそういった働きによって支えられています。「im体育官网_im体育平台@時代は私も、衣裳の仕事=“作る”というイメージが強かったんです。でも実際は、既存の衣裳を俳優の体型や新しい振りつけに合わせて調整したり、洗濯やメンテナンスをしたりと、仕事の内容がかなり幅広いんですよ」と金澤さんは笑います。

舞台上に落とし忘れないよう必要な道具類はエプロンにくくりつける

舞台上の演者を美しく見せるために力を合わせる

「衣裳は服を作って終わりではなく、舞台の上で美しく見せるまでが仕事。それを支えるのはコスチューム担当だけではありません。例えば何十年と使い続けている衣裳でも、照明を当てれば修繕の跡を光で飛ばして“新品のドレス”として見せることができる。照明さんのプロの技術力があって初めて、“衣裳”は完成するんです」。そんなふうにお互いを支え合う場面が多いため、金澤さんはスタッフ同士のコミュニケーションを大切にしています。本番中は、どんな小さなことでも無線インカムで情報共有。衣裳へのマイクのつけ方は音響設計に影響を及ぼしますし、俳優を送り出すタイミングが少しでも遅れれば流れが変わってしまうからです。

俳優がパフォーマンスを発揮できる衣裳作りを

四季でのコスチュームの仕事は、大きく開幕準備と公演期間に分かれます。金澤さんが今担当している『美女と野獣』は、約8カ月の開幕準備を経て、2022年10月から公演が始まりました。開幕準備では、既存の衣裳を今回のキャストや振りつけに合わせる作業と並行して新しい衣裳を製作。俳優が衣裳を着てスムーズに動くことができるかどうかをフィッティングで確認しながら調整します。「衣裳のつくりや作業の進め方は演目によって千差万別です。入社後初めて担当した『リトルマーメイド』は海の中のシーンが多くヒラヒラと軽い素材が多かったのですが、19世紀が舞台の『オペラ座の怪人』はスカートだけで7kgの重さがあるものも。着せつけをしていたら腱鞘炎になってしまいました」と金澤さん。開幕準備中も公演期間中も、俳優がパフォーマンスを最大限に発揮できる衣裳作りを心がけ、例えばタイツの補強を行う際も縫い目が直接足にあたらないよう工夫しているそうです。

劇団四季ミュージカル『オペラ座の怪人』 撮影:野田正明

大学でパターンを学びながら衣裳の現場を体験

3歳から20歳までバレエを続けていた金澤さん。オーガンジーやチュールが使われた衣裳に憧れ、いつしか「身につけるだけでなく、衣裳を作ってみたい」と思うようになりSUGINOへ入学しました。現在は服飾表現学科に衣装表現の専攻分野がありますが、当時はコスチュームを専門的に学べるコースがなかったため、金澤さんは大学でパターンを学びながら、バレエの衣裳製作会社で自主的にインターンシップを行うことを決意。実物に触れながら、衣裳の構造を学びました。卒業制作のテーマもバレエ衣裳を選択し、通常は化繊素材が多いバレエ衣裳を、綿レースにスタンプワーク(立体刺繍)を施したナチュラルなイメージで仕上げました。「バレエ衣裳への熱が卒業制作でとても満たされていく中で、『違うテイストの舞台衣裳も面白そうだな』と思いながら就職活動を進めていたんです」。そこで頭に浮かんだのが、幅広い衣裳製作の実績を持つ劇団四季のコスチューム部門でした。

バレエ仲間にモデルになってもらった卒業制作のファッションショー

ものづくりを通して幸せな時間を観客に届ける

衣裳の仕事をしていて一番うれしかった瞬間は、現在担当している『美女と野獣』が開幕初日を迎えたとき。カーテンコールの際、舞台袖でお客さまの割れんばかりの拍手を聞いて「やっとこの舞台を届けることができた。準備を続けてきて良かった」と涙が止まらなかったそうです。「『しまった!』と思う失敗はあっても、『これを糧に、どうしたらもっとクオリティを上げられるか』と考えるとワクワクしてくるんです」と語る金澤さんにとって、この仕事に出会えたことは何よりの幸せなのかもしれません。舞台において衣裳は、俳優の演技、美術、音楽?音響、照明などと共に、観客を非日常の世界へ誘う大切な要素。お客さまが今味わっている感動は今、ここにしかありません。ものづくりを通して相手に一期一会の幸せな時間を贈ることができる、それこそが衣裳の仕事の素晴らしさだと金澤さんは考えています。

本番つきの担当は4名。
演目の衣裳チーフである金澤さんは後輩たちに指示も出す

衣裳は、日常着とは異なる「見せる」ための服。けれど金澤さんは、インターンシップで衣裳の知識を身につけると同時に、大学で服飾基礎を学んだことにも大きな意味があったと語っています。バレエから興味の対象が移っても衣裳への情熱を持ち続けられたのは、服飾を土台にしたさまざまな体験のおかげ。最初は「ファッションが好き」だけでもかまいません。あなたも飛び込んでみれば、きっとその先が見えてきます。
※内容は取材時のものです。